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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

浴場の怪人

浴場の怪人

美子姫は毎夜ベッドに這入る前に、湯殿で身体を清める習慣があった。今日は御一泊なさる大使一行のおもてなしで就寝時間がひどくおくれたけれど、身分あるお客さまへの気疲れと、その上黄金仮面の恐怖に、心身ともヘトヘトになっていたので、気分を落ちつける為にも、入浴を省略する気にはなれなかった。

姫が侍女の小雪に手伝わせて、着物を脱ぎ、大理石の浴槽に身をつけたのは、もう十二時を過ぎていた。

純白の大理石に照り映る、まばゆいばかりの電燈。それに気丈者の小雪が、大タオルを手にして見張り番を勤めていてくれるので、深夜の湯殿ではあったが、姫はのびのびとした気持で、肌にしみ入る温湯を楽しむことが出来た。

透明な湯の中に、平べったく浮上って見える、ねっとりと白い肌。姫も世の多くの女達の例に漏れず、我れと我が肉体の美しさに見とれる娘であった。我が肌の不可思議な魅力に感じる恥しさは、やがて、遠き異郷の懐しき背の君への、云い難きあこがれであった。

うっとりと物思いに耽っている内に、姫はふと襲いかかる様な深夜の静けさにおびえて、小雪に話しかけようと、うしろを振向くと、いつの間に立去ったのか、侍女の姿は消えていた。