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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「なんでえ」

と俺は思った。俺はおふくろが好きだった。

おふくろが死んだのは、俺が小学生の三年のときだった。それから一年もたたないうちに、三郎のおっかさんに当る後妻が、俺の家へやってきた。俺が夕暮の街で、コウモリと遊ぶような少年になったのは、それからのことである。兄貴の五郎はおやじから、鋳物のコツを習わせるんだと雑工なみに工場で働かされていた。

兄貴とちがって中学へやって貰った俺なのに、それがヘンに曲って行ったのは、おふくろと死に別れたことにも原因がある。だが、俺がテロリストになったのは、いわばそんな感傷からではない。

俺は中学四年のときに、大杉栄の本を読んだ。恐ろしい人のように言われ、恐ろしい本のように言われていた大杉栄の本を、俺は恐ろしいという噂にひかれて読んだのである。読んで、俺は恐ろしいなんて感じなかったと言い切っても、うそになるが、恐ろしい真実を知らされた感動のほうが強かったことも事実である。

中学四年生の俺には、読んでもよく呑みこめない部分が多かったが、呑みこめた部分は俺の若い血をかっと燃え立たせた。つづいて俺が、大杉栄の訳したクロポトキンの『青年に訴う』