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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

食欲よりは好奇心で来たらしい女の子は、鍋に並んだまるごとのどじょうを見て、気味悪がって、

「あーら、いや」

と悲鳴みたいな声を出している。

山の手あたりから、こうして客が、名物でも食うみたいな顔をして来ているのは、昔を思うと、おかしなものだ。そうだ、山の手なんてのも、昔の言葉で、今はもうない。下町に対する山の手で、そう言や、四の橋の、俺のおやじの工場のあった、あのきたない川沿いも山の手だが、普通、山の手と言うときは、屋敷町――高級住宅地帯のイメージをともなっていたものだ。だのに、その山の手に工場なんかができたのは、俺の記憶している分では、俺のちょうど小学生時分からのことで、あの川沿いの一帯も、急にその時分から、ごみごみした本所深川と同じような風景に変って行ったのだ。

第一次世界大戦――これを欧州大戦と当時言っていたが、それに参戦して青島攻略と南洋群島の占領に成功した日本は、そのころ、急激に工業力を膨脹させ、そして近代的な工業国になった。日本中に、東京中に、工場ができた。四の橋のあたりにも、芝浦辺の大工場の下請け工場がいっぱいできた。川沿いに、きたない小工場が疥癬みたいに蔓延した。