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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
牛鍋屋と同じ、いれこみの座敷の一隅に、俺たちは陣どった。
「ズー鍋に酒だ」
と砂馬が注文した。
俺たちの隣りには、落語に出てくる横丁のご隠居といった老人が、ひとりで、どじょう鍋を前にして、ちびりちびり酒を飲んでいた。最初、俺たちに、ちらと眼を向けたきり、あとは知らん顔で、それも俺たちだけのことでなく、座敷の誰にも眼をくれないで、もっぱらひとりで酒を楽しんでいる。献盃でもするみたいに、盃を遠くに離して、右手で酒をつぐと、ゆっくり銚子をおき、盃を口と両方から接近させる形で、ちゅうと飲む。その盃を大事そうに下に置くと、箸を取って鍋のどじょうの煮えたのを裏返したり、火鉢の曳き出しみたいなネギ入れからザクをつまんで鍋に入れたり、これでいろいろと忙しい。そうかと思うと、きちんと正座した膝に両手を重ね、背を丸くこごめて、ふつふつと煮えている鍋をみつめているのは、ちょっと寂しげに見えながら、実は大変満足している姿だった。
砂馬と向い合った俺は、砂馬を先輩として立てて、壁のほうの席に彼をすわらせていた。その俺の背後には、俺からは見えないが、二人の子供を連れた若い夫婦者がいて、いたずら盛りの子供たちの監視で眼が離せないようだった。