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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

金の無いときは無いんだから、しようがないんだ。

金がほしいと思わないときは、俺には金が無いのだ。今の俺がほしいものは、金じゃない。だから、俺には金が無い。――

火のはいった小さなコンロを女中が運んできた。つづいて、ズー鍋を持ってきて、コンロの上にのせた。

「酒を早く、くんな」

と砂馬が言った。

「はい、はい」

子供みたいな山出しの女中が、一生懸命働いている。鍋のなまずは、まだピクピク動いていた。つい今し方まで、生簀のなかで生きていたなまずが、マナイタの上でぶった切られて、小さく刻まれて、その火の上にかけられている。

血のついたそのなまずのひと切れを、俺は箸でつまんで自分の鼻さきに持って行った。

「なにしてんだ」

砂馬があきれて、

「この店は、あがったなまずなんか、使っちゃいねえよ」

俺は黙って、なまずを鍋に返してからニヤリと笑って、つぶやきの低さで、

「血のにおいに飢えてるんだな」

砂馬は眉間にしわを寄せて、いやな顔をしたが、

「分るよ」

と言った。

なに言ってやがると、俺は思った。

そう思うんなら、この砂馬などに会わなきゃいいのに、俺は寂しかったのだ。気持が凶暴になってるくせに、あるいはそのために、寂しくてしようがない。