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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

南一光と親しいせいもあるだろう」

南一光というのは右翼の一方の旗頭で、俺もその名は知っている。

俺は自分のことに話を移して、

「今度のことは慷堂先生にも黙って――黙って行くつもりだ」

俺の言葉に北槻中尉が黙って大きくうなずいたとき、足音荒く階段をどやどやと数人の客があがってきて、廊下を踏み鳴らすようにして、

「ここかな」

と無遠慮に座敷をのぞき回っている気配に、

「来たな」

北槻中尉は、きっとなって、

「かくれろ!」

と俺に言った。

その命令調が俺には気にくわなかった。俺は何も中尉の部下じゃないし、中尉の命令で動いている人間ではない。どっかと坐ったまま、

「サツかな」

警察なら軍人がおさえられるし、おさえるべきだ。そう思った俺に中尉は、ちがうと言って、

「この座をはずしてくれ」

「どうして……」

「君を内紛の巻きぞえにしたくない」

口ばやに言って、窓を指さし、

「そこから、早く……」

脱走しろと眼で言わせて、大きな下足札を俺に、

「これ……」

と差し出した。

「こいつはおもしれえや」

捨て科白を残して、俺はひらりと窓に飛び乗った。岸に寄せる波はさして強くないのに、白い波頭が岸までとどかないうちに暗い沖で崩れている。