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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

おそらくもっと困難な苛酷な条件と彼らは闘ってきたのだ。あのゲルシュニを思え。そうだ、女でさえ単身、やってのけているのではないか。うら若い女の身で、警戒厳重な高官を狙撃したマリア・スピリドーノワを思え。マリアはそのとき二十一歳だったのだ。

あせらず、機会をつかもう。今夜はひとつ、英気を養おうと、俺は、

「カクは――遊郭はどこかね」

係りの女中に聞いてみた。波子という名のその若いドヤビリ(女中)は、黙って俺の顔をみつめた。にこりともしなければ、にやりともしない。俺のほうが第一、突っけんどんな声であり、顔だったせいかもしれぬ。

「朝鮮に来たんだから、朝鮮人の女郎屋がいいね」

にやにやしながら俺が言うと、

「そいじゃ新町へいらっしゃい」

「新町と言うと?」

鐘路のほうかと思ったら、それは日本人町の本町通りのはずれだった。

「いや、ありがとう」

俺はそっぽを向きながら言った。このとき、ニャーンという猫の声が、ひどく間近に聞えた。まるで波子がニャーンと言ったみたいで、思わず眼をやると、

「お客さん、猫が好きなんですか」

「ああ……」

俺は波子の顔を見て、

(ほう、こんな顔だったのか)