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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
それが妙に可愛い。と見たとき、波子が、
「お客さんのほうで何かあたしに頼むことない?」
「俺のほうから……?」
「頼みたいことない?」
「ないね」
「そんならいいんです」
その夜、俺は波子から聞いた新町裏小路の娼家街へ出かけて行った。すごくたくさんの娼家がひしめいていて、想像以上のその密集、大密集にも驚いたが、色街に似合わぬ殺伐な雰囲気にも驚いた。朝鮮人のせいではなく、日本人がわがもの顔に振舞っているのだ。
「その朝鮮人サバレ(つかまえろ)! サバレ!」
酔っ払った日本人がわめき立てている。
「ノアラ(放せ)! ノアラ!」
アイゴーと叫んでいるのは朝鮮人の若者である。女のことで何かいさかいでもしたのか。アイゴーという言葉しかそのときの俺には分らなかったが、何かと言うとすぐサバレとどなって朝鮮人を虐待する日本人の非道ぶりはぴんと来た。
朝鮮人の女を買いに来た日本人の俺は、すっかり気分をこわされた。立飲み屋で安酒でも一杯ひっかけようと、ニンニク臭い路地に足を入れて、ぎょっとした。
足もとに猫が死んでいる。しかも昼間見たあの猫が(――と初めはそう思った)無惨な死体となって俺の前に横たわっている。