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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「よし、お前にもやろう」

パンをちぎって投げてやると、犬は石でもぶっつけられたみたいに尻尾をまいて、あわてて逃げた。

馬鹿な奴だ。だが、その馬鹿な奴は、いったんは逃げ出したものの、のそのそと戻って来て、地面に鼻をくっつけてパンを探しにかかった。

「そんなとこじゃない。こっちだよ」

俺が言うと、犬はびくっと逃げかける。俺はよけいな注意はやめた。

探し当てたパンを犬は口にくわえた。アグアグとやったと思うと、ほとんどひとのみにした。

「どうだ、うまかったか」

このときの俺には微塵も殺意などはなかったのである。

犬は疑わしげな眼をして、俺を見ていた。パンをくれた俺に感謝する眼ではなく、なんでパンをよこすのかと猜疑にみちた眼なのである。俺は俺の好意を犬に知らせてやりたいと、ふたたびパンを投げ与えた。

犬はぎょっとして逃げかけたが、そんな恰好をしただけで今度は逃げ去ることはしなかった。パンもすぐ見つけて、あっという間に食ってのけた。

俺は新たにパンを、ふわっと空中に放りあげるようにして犬に与えた。犬はそれを口で受けた。

「うまいぞ」

ほめてやったが、犬はおどおどと俺を見ていた。