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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「うまいとこ、見つけたな」
「お店?」
「よかったな。自分で見つけたのかい」
「あたしだって、東京に知り合いがないわけじゃないわ」
俺はドキンとした。いやな気がした。奇妙な嫉妬だった。
波子はとりなすように、
「四郎さんの家へ遊びに行ってもいいかしら」
「きたねえ下宿だ」
「行っちゃ、いけないの?」
「いけなかないよ。でも、あんまり、きたないから……。近いうちに綺麗な下宿にかわる。もうちょっと待ってくれ」
と俺が言ったのは他に理由があった。蹶起に参加するはずの俺は、万一の場合、波子に対して巻きぞえを食わせるような目に会わせたくなかったのだ。
小さなしもた家の窓の前に、日よけのように、朝顔の葉が繁っていた。素焼きの鉢が並べてあるのだが、細い竹竿を軒さきに向けて立てたのに、朝顔がそれぞれ争ってツルをのばしている。朝はさぞかし見事だったろうと思われるたくさんの花も、今は拳を握ったようにしぼんでいる。子供がその花をつんでいた。あとから咲く花を小さくさせないためである。踏み台まで持ち出して、それに乗って、高いところに咲いた花を丹念につんでいる。
俺は波子の手をつと取って、学校帰りの子供のように、握りあった手を大きく振って歩いた。