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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「四郎さん」
「なんだい」
波子は無言のまま、いきなり俺を乱暴に突き飛ばした。前から来た自転車に俺はあやうくぶつかりそうになった。
「なにすんだ」
「四郎さん、カタギになって」
「浪花節みたいだな」
と俺がふざけたのは、波子の真剣にとまどったからだった。
「じゃ、いいわ」
と波子は言って、とっとと俺から離れて行った。
「おい、波ちゃん」
波子は足の速度をはやめ、そのまま駈け出して俺から去って行った。
「おい、波ちゃんたら」
のちに十月事件と呼ばれた蹶起計画のために俺は呼び戻されたのだが、これは九月に勃発した満州事変に呼応して計画されたものだった。
その事変の直前に砂馬がふらりと東京へ舞い戻ってきた。黒く陽やけした顔は満州滞在中の労苦を偲ばせるのだったが、それだけにひどくふてぶてしい面構えになったとも見られた。
「猪沢市太郎に会った」
「あの照子の……? どこで?」
「奉天でホテル住まいをしているんだが、豪勢な暮しぶりだったぜ」
「娘をガセビリにしといて……」
俺が憤慨すると、砂馬はどういうわけかワッハッハと哄笑して、
「おやじはそんなこと知らないんだ」
「それがどうしておかしいんだ。