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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

口々に言いあっているところへ、

「赤紙(召集状)がくるより、いいだろう」

とアビルが言った。当時、こんな科白は、これこそ気ちがいでなかったら言えないことだった。公然とこんなことを言うアビルは、こりゃ、気ちがいじゃないと逆に、そう俺に思わせた。

みなは、はっとして、一瞬、静かになったとき、

「お前さんは赤門出か」

と「牢名主」が重野に言った。

「誰だってアカ門(女陰)出だ」

と、まぜっかえした俺に重野は、

「玉塚さんに会った。豚箱で」

「静かにしないか」

シリヒキの看守も、たまりかねたように、どなった。

シリヒキ――甘い看守のことをそう言うのだが、そのシリヒキの番のときに(この看守ではなかったが)みんなで金を出し合って、アマシャリ(菓子)を夜の就眠前に食おうということになった。留置場ではもちろんそんなことは厳禁されているのだが、こっそりシリヒキに頼んで(どうせ上前をはねるのだ)弁当屋に買ってこさせるのだ。リュウコがながくなると、甘いものがすごく食いたくなるのだ。

重野は金をもってなかった。ラジオの羅漢も一文なしで、俺が二人のかわりに出してやると言うと、

「かたじけない」