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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「加柴、もうやめろ。すこし、のぼせあがってやがる」
その砂馬に猪沢が、
「いや、こういう人物を俺は買うね」
俺を庇うというよりは、俺をほんとに品物みたいに買いたそうな口調だった。砂馬がそれに対してにがにがしく、
「加柴は昔からのあたしの仲間で、残念ながら猪沢さんには……」
「売れねえか」
と俺は言って、冗談じゃねえやとこれを口の中で言った。
その夜、俺は浅草のひょうたん池へふらふらとひとりで出かけて行った。いや、実を言えば――ふと、気がつくと、ひょうたん池のそばに来ている自分を見出していたのだ。六区の映画館街は割引のベルが鳴っていて、雑沓する人々の足音も騒々しい。そのザブ(雑沓)のざわめきが、暗い池の端に立った俺の耳には何か遠い潮騒のようだった。
豚箱で会った、アビルと自称していた男が、ひょうたん池でまた会おうと俺に言った。それを俺は思い出し、それが俺をここへ導いたのだ。
藤棚の、葉は落ちて枝だけの、その枯枝みたいなのが蛇のごとくにくねっている下に、ガタ公(乞食)としか見えない男が、寒風にさらされながら、ローソクを片手に持って立っていた。ボール紙で手製の囲いをして、さらにそのローソクの火を風に消されないように身体で蔽って防いでいる。