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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

しかしこれは客観的には、単に波子がコチジロだったというごくつまらない(だから喜びに値しない?)、他人にはまことに平凡な(だから、俺みたいな者には異常な?)、さして珍しくない事柄がすっかり俺を狼狽させていたのである。このいわばくだらない狼狽を、俺はさもそれが俺のもとめていた狼狽であるかのように、主観的に大ゲサに受け取ったのであろうか。だが、これはくだらない狼狽のようで、俺には絶望が俺に与えるようなものを与えていた。すなわち、その狼狽は俺の心に強い苦痛を与えていた。

波子は俺にそうした狼狽を与えながら、俺とどこかへ逃げようと言う。どこへでも行くと言う。これは俺に身体を許したことから来た決意というのではなく、実際はその逆なのだった。俺に狼狽を与える前から、波子はそう言っていたのだ。しかし俺としては、そうした波子だからとて、そうした波子であればあるほど、俺の愛する波子を、俺の狂った運命のなかに巻きこみたくないと思う。と言って、このまま波子を手離したくないおもいも強い。どうしたらいいか。この迷いも狼狽を生んでいたようだが、事実は波子のあの決意と同じく、狼狽のほうが先に存在していて、狼狽のためのこの迷いなのだ。