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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

アビルのすすめる北海道への脱出が俺には、俺自身からの脱出を意味するものだったから、俺は喜んで封筒を受け取って、

「縁もゆかりもない俺に、なんだって、こう親切にしてくれるんだ」

「加柴さん」

とアビルは俺の名前を言って、

「俺も一時はアナーキストだったのだ。田舎のアナーキストだが、スチルナーにすっかり傾倒したことのある人間だ。だから、あんたのことは知ってるんだ。現在のあんたのことは知らないが、テロリスト時代のあんたの勇気、あんたの情熱をかねて俺は尊敬していた。せめて、あんたにこのくらいのことはしたい……」

俺は猛烈な恥ずかしさを覚えた。不当な辱しめを受けたかのようでもあった。不当に親切にされることは、たしかに恥ずかしく屈辱的なことだ。

それをアビルは見抜いた声で、

「俺は俺で、あんたにこう聞きたい。なぜあんたは特にこの俺を選んだのだ。あんたが俺に、なぜ親切にするのかと言うんなら、俺だってあんたに、なぜ俺を見込んで、ここへ来てくれたのかと言いたい。それが俺には嬉しく、それを俺はありがたく思っている。あのカリムシで会えたことは不思議な奇縁だ」

俺は黙ってうなずいていた。