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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「そのうち、自信ができたら言うよ」

「自信って?」

「お金ができたら……」

俺はひどく照れて、照れ隠しのように、クララの肩に手を回した。荒々しくひきよせて、クララの耳の下に俺は唇を当てた。

「乱暴ね」

と言うクララの口を俺は自分の唇でふさいだ。やわらかいクララの口を俺は貪るように吸った。

クララはこのとき俺にとって、金で買った安淫売ではなかった。金さえ出せばどんな男にも自分を抱かせる安淫売とはちがうクララを、俺はそこに見出すのだ。

こういう場所の女たちは、サシミ(接吻)だけはいやだと言うのが普通だった。きたないから、いやだと言う。ほかはどんないたずらをさせても、口だけは許さない。クララもそうだった。初会のときは、固く拒んでいた。翌日すぐ俺は裏をかえして(初会に対する再会のことだが)クララを買ったときも、いやだと言った。口を固くとじて、よして、よしてと言った。

クララが接吻を許したのは、何回ぐらい通いつめてからのことだったか。

「知らない」

とクララは初めての接吻のあと、そう言って俺を睨むようにした。

「ごめんよ」

と俺は言った。俺は嬉しかった。身体は売っても心は売らない女が、俺に接吻を許したのは、つまりその心を、貞操を許したということなのだ。