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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「人殺しの右翼とは縁を切ったほうがいい。切って貰いたいな」

なぜかアビルは恥ずかしそうに言った。六区の映画館がはね、人がぞろぞろ出てきた。スクリーンの悲劇に満足した人々の黒い影が、明るい灯を背景にした走馬燈のように動いて、俺たちとは別世界のようだったが、

「さ、商売、商売」

みずからを励ます声でアビルは言って、

「あたしはこんなざまだが、弟は――行って見れば分るけど、あたしとちがって、ちゃんとした生活者だ。あんたをかならず引きうける。あたしの言うことを信じてくれ。しばらく根室へ行って、加柴さんも生活者のなかで生きてくるといい」

アビルは俺を得心させると、それで力がつきたみたいに、言いかえると俺に希望を与えることで彼自身は何かモヌケのカラにでもなったみたいに、ぐたりと肩を落して、

「あたしもこんなあたしから、そろそろ逃げ出そうと思っている。でも、どんなあたしへ逃げ出すことやら……」

この最後の言葉を俺は覚えているべきだった。そうしたなら、数年後、思いがけないところで、思いがけないアビルに会ったときのショックと言っていい驚き、そしてそのための俺の精神的なめまいから、俺はのがれられたにちがいないのだが……。