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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「イヌ年だけど……どうして?」

北海道へズラかるについて、俺は丸万にだけは会わないではいられなかった。会わす顔のない丸万に、俺は会いに行った。ベカツケ(あやまり)に行ったのである。

スイバレ(雨天)の日だった。丸万が商売に出られない日なのである。

浅草の松葉町の小さなしもたやの二階に、丸万は間借りしていた。この辺一帯には、丸万の同業者が――と言うより、アナ崩れの丸万などとちがって、六区に常設的な露店を出している、いわばれっきとしたバイニンが住んでいた。それは小さいながら一戸を構えている。

間借りの丸万を訪ねるには、そのしもたやの裏へ回って、台所へ行かねばならなかった。つまり二階の間借り人の玄関は、その家の台所なのだった。あやしげな荷物をしょった丸万が、表の玄関から出入りするのを嫌ったというのでなく、二階へあがるカルアユミ(階段)が、不思議なことにその家は台所に作ってあった。はじめからオカルバ(二階)が間貸しできるようにしてあるのか。

台所のガタビシした戸をあけると、そこに赤い鼻緒の古い女下駄と丸万のらしいちびた下駄があった。丸万はまだ独り者だから、女下駄はこの家のおかみさんのものである。