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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

決意をこめて言ったのに、相手はあっさり、

「そうらしいな。砂馬さんから聞いた」

「砂馬さんは矢萩から聞いたのか。あの矢萩ってのは、どういう奴なのかな」

「おめえは知らねえのか」

丸万は憐れむように言って、こんな話をした。数年前に日本の総領事の怪死事件というのがあった。中国駐在の――当時は支那と言っていたが、その駐支総領事が外務省との打ち合わせで帰京した。打ち合わせが終って中国に帰ろうというその前夜、ホテルの一室で「自殺」をした。ピストルの弾丸が左のこめかみから右へ貫通していた。そのピストルが枕もとに置いてあったが、それは総領事のものではなかった。「自殺」ではなく他殺らしいと分ったが、しかし事件はうやむやのまま、いわゆる迷宮入りで終った。

「その犯人がどうやら矢萩らしいんだ。いや、矢萩だとされている。その総領事は日本の治外法権撤廃を建言に来たんだ。それを憤ってやっつけたらしい。対支軟弱外交の連中への見せしめに、その総領事を血祭りにあげたんだな」

「それで、よくまあ、ワレねえで……それどころか、あの矢萩ときたら、のうのうと大きな面して……」

「かげでもっと、いろいろすごいワリゴト(悪事)をやってるようだ。