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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「氷点下三十度を下ることさえある。よくまあ生きのびてきたもんだ。それだけに、優秀な馬だ。普通の馬なんか脚がめりこんで絶対に渡れない湿地でも、道産子は平気で渡って行く。大したもんだ。この道産子は今でも寒中放牧――と言って、冬でも放牧のままだから、依然として雪のなかで生きている。雪中放牧とも言っている」
雪のシベリアに流されたヴセレンツィにみずからをなぞらえている金原は、その雪中放牧を当り前のことみたいに言って、ルンペンストーブに、木の根っこと見られるたきぎをぶちこんだ。雪の中で食い物は一体どうするんだろうと俺が聞くと、
「雪を足で掘って、ササの葉なんか食ってるさ。それもなくなりゃ、お互いの尻尾やタテガミを食って生きてる」
まさか――俺が言うと、尻尾やタテガミのない馬が実際にいるのがその証拠だと言う。
聞くに堪えないようなむごたらしい話だが、俺には話のむごさよりも、道産子への感嘆のほうが心に強く来た。
(えらい奴らだ)
俺の眼にはいつか涙が浮んでいた。
「煙いなあ」
とごまかしたが、煙のための涙なのではなかった。俺はこの話を、家へ帰ったら波子にしようと思った。