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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

サトニキタ

ノニモキタ

子供が歌っている。北国の遅い春、その春は俺にも来たのである。

波子と仲良しだった「渡り鳥」たちが今年も工場へ働きに来た。その娘たちが手すきを見て、入れかわり立ちかわり、赤ん坊をのぞきに来た。おもちゃのガラガラを買ってきて、彼女らの言う「メンコイ」赤ん坊をあやして、

「ほーら、笑った」

と大喜びである。

平凡な生活の平凡な喜びが今こそ俺に分った。俺は初めて自分から脱出した。脱出できたのである。死人の自分から初めて脱出できたのだと思った。

「あの馬も春が来て喜んでることだろう」

寒中放牧の道産子について俺は金原からいろいろ話を聞いたが、それにはこんなのもあった。ある年の冬、すごい大雪が降ったときのことである。三日間つづけての猛吹雪がやっとおさまった朝、馬のことが心配になった牧夫が「立ち場」(馬のたまり場)へ様子を見に行ったところ、馬の姿が見えない。どこにいるのか。どこへ行ったのか。深い雪のなかを探し回っているうち、丘と丘の間の窪地に出た。見ると、そこの雪の吹きだまりから水蒸気が立ちのぼっている。まるで温泉が地面に湧いていて、その湯気が雪の厚い層を通して吹きあがってくる、そうとしか見えないのに、おかしいなと橇を飛ばした。