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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「矢萩先生」があんたに会いたいと宿屋でお待ちだと言う。顔がいやに生っちろいその若僧に、宿屋ってどこの? と俺が聞いたのは、まさかこの根室の宿屋だとは思わなかったからだが、矢萩は根室に来ているのだった。根室くんだりまで「矢萩先生」ともあろうものが、なんだって……。

「加柴さんに用があるらしい」

シーッと俺は口に指を当てた。ここじゃ、俺は野中と言うんだ。気をつけて口をきいてくれと言って、

「俺は、矢萩さんには用はねえ」

だから、行かねえ、行くことはねえだろうとことわったところ、相手はあっさりと、そうか、そいじゃ先生にそう言おう。ひどくあっさりしていて、こっちがあっけに取られるほどだった。そのあっけなさはもちろん神妙といった類いのものではなく、何か投げやりな感じなのは、その物うげな身のこなしにも出ていた。どうでもいい、そんなふうなのだが、同時に、俺の拒否に対して、その結果、俺の身にどんなことがおころうと知らねえよと突っ放している。口に出して言わないだけに冷たい図太さが感じられる。とにかくこういう連中によくある、血の気の多いタイプとはまるでちがう。すぐカッとなる連中とはちがう、冷血動物めいたその男の、生っちろい顔がとみに冷酷無慙を思わせる。