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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
俺を大物扱いして俺をいい気持にさせようという魂胆でもなさそうだが、
「いいや、じかに来なきゃいけねえな」
と朝倉は言った。
「よし、行ってやる」
と俺は言った。大物ぶった言い種というより、俺としては恩にきせる気持だった。
「そいじゃ、案内しましょう」
事務的に言って、朝倉は俺の翻意を別に喜ぶでもなかった。俺は矢萩には尾行がついてるんじゃないかと朝倉に聞いた。となると、うるさいなと思ったら、
「ちゃんとそれは、うまく、マイちゃった――と言いたいんだが」
「ついてるのか」
「はなから、てんで、ついてやしねえ」
ほき出すように言って、
「それだけ、顔がきいているんでしょうがね」
帳場の者にことわって俺は外に出た。街にはタマカゼが吹いていた。ヤマセと反対に天気のよくなる風で、内陸から吹いてくる。このタマのマは、マとバの中間の発音で東京もんの俺にはうまく言えない。
十月事件の前夜、四谷の安待合に泊ったとき、矢萩の名を口にした男がいた。その名を俺は言って、知らねえかと朝倉に問うと、聞いたことのある名だがと朝倉は言って、どうしてそんな男を知ってるのかと逆に質問してきた。
「知ってるというほどのこともないんだが」