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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「朝倉が気に入った? それはよかった」

暗い陰湿の顔に喜色を浮べて矢萩が言ったとき、朝倉がさも気に入らないことを言われたかのように、ぷいと立った。その白い顔はしかし無表情で、もう一人の男に、座を外そうぜといった眼くばせをした。ほいきたとその男も立った。彼らに矢萩は何か言いたそうにして、その口をきっと結んだ。

「照子を呼びに行くのかい」

と俺は言った。からかう調子には、われながら、いささか虚勢があると思われた。

「阿寒湖まで呼びにゃいかれない」

と朝倉はひやかすように言って、部屋を出て行った。

矢萩はにがにがしそうに、

「あの朝倉のどこが気に入った?」

「ああいうのをニヒルと言うのかな」

「あれはフウテンだ」

子分の悪口はいけないね。それは言わないで、

「フウテンはこの俺だ」

その証拠が、朝倉と一緒に今出て行った男から聞いたろうが、あのウキス(船)での一件だ――と俺が自分から自分の人殺しの話を持ち出したのは、矢萩が背後で操っていたらしいあの夜の真相を知りたいからだった。

「いや、いや、フウテンどころか、度胸のいいとこをわざと見せておいて、そのままトンズラとは――俺も気に入ったね、君が」