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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
丸万はそんなふうに言って、
「かおるさんが四郎さんの奥さんとは知らなかった」
「そうか。何しろ俺がバテちゃったから……」
思わず弁解じみたことを言った俺に、丸万は、
「砂馬さんが見舞いに来るところなんだが、ずっと満州なもんで……」
「砂馬親分は上海が本拠じゃないのか」
ちょっと皮肉をこめて「砂馬親分」と言った。丸万は窮屈そうなワイシャツの首に指を入れて、
「いろいろむずかしいことがあってね」
「砂馬親分は豪勢だそうだな」
「砂馬さんはしょっちゅう四郎さんのことを言ってる。どうして砂馬さんのところへ顔を出さないんだ」
顔を出せ……? ヘネルな(馬鹿にするな)と俺はどなりたいところだったが、
「むずかしいことがあるって、なんだい」
「軍にはむずかしい派閥があって――四郎さんのほうがこれは詳しいだろうが、それで仕事もなかなかむずかしいんだ」
俺を軍と親しいと見ている丸万は、それにしては俺がなさけない部屋にいるといった眼で、
「四郎さんは国体原理派のほうだな。あんまり金には縁のない青年将校のほうか。俺たちは統制派のほうなんだ」
いかにも砂馬の「一の子分」らしいことを言う丸万のほうが、俺よりは軍の内幕に詳しいようだ。