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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「光社のあの陳春培なんかの先輩かい」

と言ったが、震災前にすでに日本を追われていた中国人アナーキストのこの陳を俺は何も個人的に知っているわけではなかった。その名前を俺はただ聞いて知っていただけだった。中国人の留学生の間にアナーキストの団体があって、その先駆者としての陳春培という名を、彼らから俺は聞いていた。陳は光社というアナーキストの結社を日本で作っていたが、そのため日本の官憲から国外追放を命じられたのだ。

「先輩どころか、張継はもっと大物さ」

と丸万は言って、

「ねえちゃん。ザクをくんな」

「ネギよりナマ(肉)がもうすこし食いてえな」

と俺は言ったもんだ。ここは詩人の高村光太郎がその詩のなかで次のようにうたったところである。

ぎっしり並べた鍋台の前を

この世でいちばん居心のいい自分の巣にして

正直まっとうの食欲とおしゃべりとに今歓楽をつくす群集、

まるで魂の銭湯のように

自分の心を平気でまる裸にする群集、

かくしていたへんな隅々の暗さまですっかりさらけ出して

のみ、むさぼり、わめき、笑い、そしてたまには怒る群集、

人の世の内壁の無限の陰影に花咲かせて、

せめて今夜は機嫌よく一ぱいきこしめす群集、