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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「へい」
強いられたいんぎんさで、俺からトランクを取ると、くるりと背を向け、急にあたふたと人を掻き分けて行った。
それを追うようにして、丸万は短い足をせかせかと運んだ。その外套は中国スタイルとでもいうか、長衫に似て袖がながく、手がすっぽりと隠れてしまう。若者を従えて立っていたときの姿は、貫禄があると見られたが、手の見えない長い袖を振っている丸万はいささか滑稽だった。
丸万も何かバツが悪そうで、それを紛らすみたいに、
「海はどうだった」
「大分荒れた」
「船酔いはどうだった」
「苦しんでたのもいたが、俺は寝ちまったよ」
つづいて丸万が何か言ったが、聞きとれなかった。丸万の声が聞えないくらいの喧騒に俺は取りまかれていた。
黄包車の車夫が、下船した客をつかまえようと、大声で喚いている。喧騒はその大声のせいだけではなく、荷運搬の小車や大車の苦力たちも、白い息を吐いて、何か口々に喚き立てている。垢で黒光りした綿入れの上衣を着た苦力たちが、うようよと犇いて、それがみんな、寒さしのぎみたいに、わあわあ言っていて、埠頭全体がまるで白熱した拳闘試合の行われている競技場みたいだった。