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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

なんで、こんな男を連れてきたのか。砂馬の眼はたしかにそう言っていた。

それは俺も、俺のほうでつとに疑問に思っていたことだ。丸万と俺だけではと砂馬がいささか俺たちに不信を抱いて、このロクを目つけ役にしたのかとも思ったのだが、それにしてはこんなフウテンじゃ役に立たない。目つけ役なら、それと分らぬように振舞うべきなのに、このロクはてんで駄目だ。

丸万がむしろ俺のためにロクを連れて来たのだ。このロクは砂馬の前では、急に打って変った卑屈な態度になった。ウェイウェイと黄包車でも呼ぶみたいな声で、招待を呼んで、砂馬の小皿を新しいのに変えろと、わざとらしい忠勤振りを発揮した。ここは奥まった雅座――プライベート・ルームの一室である。

このロクの車内の口ぶりからすると、俺が矢萩からも金を取ったことは砂馬にばれている。ロクを連れて来た丸万の配慮によって、俺にそれが分ったのだ。だが、当の砂馬はそれについてはなんにも言わず、

「悲堂先生が死んだな」

「いつ?」

「一週間ほど前……」

俺が東京を発つ直前だ。しまったと、俺は思った。死ぬ前に一度、会っておけばよかった。死んだと聞くと、それがよけい悔まれた。