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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「ぶったたくのは日本人かい」

「いいえ、支那人ですよ」

「支那人同士か」

「ですから、なかには通謀してるのもあるんじゃないかしら。どの道を通って、トラックがどの辺で徐行すると、前もって教えてやってるんじゃないかという気もしますね。今日のなんかもそうかもしれない」

「知らん顔は、驚いたね」

「こういうのを大目に見なかったら、餓死者がうんと出て大変でしょう。これでも、冬の上海は寒いから、毎晩、凍死者が出ますからね」

「戦争のせいかい」

「上海は昔から、こうだったそうですよ。難民は今にはじまったことじゃない。支那はしょっちゅう内乱つづきですからね」

「家がなくて、往来で寝るんで、凍え死にをするわけか」

「河向うの六馬路なんかへ朝行けば、道ばたで手足をちぢめて死んでるのが、いくらでも見られますよ。凍死者なんか上海じゃ、ちっとも珍しくない。一遍見に行きますか」

蜂の巣のような弾丸の跡を残した建物が目立つ。煉瓦のどてっ腹に大きな穴があいて、板でそこを蔽って、仮の――おっと待った、一時凌ぎの壁にしている家もあった。そうだ、ニセの壁だから、これは仮の壁でいいのだ。

激しい市街戦が偲ばれる。