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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

だだっ広いロマンス・テーブルをひとりで占領するのは、カモ扱いされる感じだった。と言って、マダムは? といきなり聞くのもおかしいので、スタンドにつこうと俺は奥に足を進めた。その俺に、やあと声をかける客がいた。

風巻だった。碼頭に来ていた記者と一緒で、

「ここへ、ま、おかけにならんですか」

と風巻は言った。

照子はいないかと店を見回しながら、俺がその席につくと、

「あなたはあのテロリストの加柴四郎氏なんですね。有名な福井大将狙撃事件のあのテロリストの仲間なんですね」

と風巻がおもねるように言った。俺はうんざりして、

「そのなれの果てさ」

言いながら、

(あれは……?)

と眼をすえた。小肥りしたマダムのような女が、ボーイに何か指図している。ランマブ(盛装)の、その帯を胸高に締めた胸をそらせて、びしびしと何か命令している。

恰幅のいいその和服姿から、往年のほっそりしたクララをただちに思い出すことはむずかしかったが、その横顔は紛う方なき照子だった。マダムとして手きびしく抜け目なく店を取りしきっているその照子は、丸万の場合よりももっと強く、それとは比較にならぬほどの、まるで人のちがうような貫禄を俺に感じさせたが、それが昔のクララであることに間違いはない。