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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「立派になったねえ」

と俺は言った。皮肉ではないが、単なる感歎でもない。俺はいささか不機嫌なのだった。照子が俺を忘れていたという理由だけのことではない。いろんな意味で「立派」になった照子に俺がちょっと圧倒される感じなのが、俺を不機嫌にしているところもあった。照子は企斯を酒のサカナに出してきた。そして西瓜子と白瓜子も出して、

「昔のあたしのお客さんのなかで、ひょっこりお店に見える人だってあるでしょうけど、だれもあたしのこと分らない」

率直のようにも聞かれれば、そんなような言い方で俺にしっぺ返しを食わせているとも取れる。私娼窟のクララと現在の照子を対比するような俺の言葉はたしかに残酷だった。

「俺は何も――昔にくらべてという意味じゃない」

「いいのよ。あのときからずっと会ってないんですもの」

コップを唇に当てて言った。その受け口は、俺が夢中になったクララ時代と変らない。

「何年ぶりかしら」

照子の問いに俺はただちに答えた。

「十年ぶりだ」

なつかしい。それも俺を不機嫌にしているのか。

「君は麻布の俺のおやじの家に来てくれたんだって?」

「ええ。あたし、あのとき……」