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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
見渡すかぎり田圃がつづいていて、冬のせいもあろうが、人影が全く見られない。寒風にさらされながら堤の上を俺たちが歩いて行くと、橋のたもとに日本兵の歩哨が立っていた。そんな荒涼たるところに歩哨がいるのには驚いたが、俺たちを誰何した歩哨も、こんなところに日本人がやってきたのには驚いていた。何しに来たと言う歩哨に、
「ご苦労さん」
と金原は言って、さも軍の用務を帯びて来たかのようなことを匂わせた。こんなところへ来る以上、ただ者でないことは察したらしい歩哨が、
「充分、気をつけて下さい」
このさきには敗残兵がまだ出没していると言った。
俺たちはまた堤の上を歩いて行った。
「目ざす物資は、とっくにシナさんに持ってかれてるかもしれないな」
と俺は言った。この「シナさん」とは中国兵の意味である。
「なくって、もともとさ」
あばただらけのトーチカを横眼で見ながら、金原はうそぶいて、
「それよりこの地図がたしかかどうか……」
依頼者から渡された地図がもしも不正確なものだったら、無駄足だと言って、ただちに、
「しかし、シナさんは決してあやふやなものはよこさないはずだ」
と金原は言った。