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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
照子は矢萩の死を砂馬一派の仕業と見せかけるように取り計ってくれたはずだ。そうして俺の身を守ってくれたはずだが、そんなこともどうでもいいのだ。
くだくだしく俺は俺の心境を語ったが、こんなこともどうでもいい。俺はもうすぐ、この話を終ったら、この世からおさらばするのだ。俺は俺自身を殺すのだ。俺自身に対して俺はテロリストたろうとする。
自分に対してテロリストたることで、初めて俺はテロリストたりうる。と言うと、砂馬のことではテロリストになりえなかったのか。また、よけいなことをくだくだとしゃべりそうだ。話を急ごう。話を急がせるために、かいつまんで筋だけ語ることにしよう。
俺は法租界の砂馬の家へ行った。愚園路のナイト・クラブみたいに、いかめしい鉄の門のあるすごくカイダイ(でっかい)邸宅なのに、
(どうだ、これは!)
と敵愾心を燃え立たせ、いよいよ俺は勇み立った。ここはナイト・クラブとちがって門が厳重にしまっている。
さて、どうしてもぐりこむか。腕を組んで鉄門を睨んでいると、一台の自動車が近づいてきた。車をやりすごそうと、俺は門の脇に身を隠した。ところが、その汽車(自動車)の奴、急に速度をゆるめ、門のほうへ向きをかえて、ヘッドライトが俺の姿を照らし出した。