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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

穴のなかからその男を引っ張りあげねばならぬ仕儀となって、

「この野郎、世話を焼かせやがる」

「このまま土をかぶせちまうか」

生き埋めという手もあると言い出したのは、首なし死体のある穴へ降りて行くのはさすがに気味が悪く、兵隊も尻ごみをしたからだ。

「よし、俺が手伝おう」

と俺は買って出た。よけいな手出しをせんでいいと、遮る手を振り払って、俺は穴のなかに飛びこんだ。

どしんと尻もちをついたその俺の尻のすぐ横に、生首がころがっていた。

あやうくその生首の上に俺は尻もちをつくところだった。眼かくしが外れたその首は、かっと眼玉を開いて、俺を睨んでいた。

俺はこのとき、首なし死体の、首をチョン切られたノドというものを、生れて初めて間近に見た。それはイソギンチャクがきゅっと収縮したみたいで、俺は、気味悪さを通りこして、真赤なイソギンチャクのような不思議な物体を見るおもいだった。

穴に自分からころがり落ちた男は、冬眠のカエルみたいに、土にへばりついていた。土のなかに頭からもぐりこもうとするみたいなものを、

「おい、公、起きろ」

と無理やり、うしろから抱きおこした。いやだ、いやだともがくのを、俺は満身に力をこめて、よいしょと立たせた。