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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「うちなんかないわ」

とクララは俺の顔を見た。俺から顔をそむけるのでなく、そむけて言うような言葉を、逆に俺を直視しながら言った。

「家出しちゃったんだもの」

「家出したうちへ、今日、行ってきたのか」

「行きゃしないわよ」

クララは可愛く俺を睨んだ。俺はなぜ睨まれなくちゃならないのか分らなかったから、きょとんとしていると、

「四郎さんのうちはどこ?」

「本郷だ」

「本郷はどこ?」

俺のことはどんどん問いつめてくる。

「千駄木町の下宿屋にいるんだ」

「下宿屋に? いいわねえ」

クララはそんなふうに言って、

「遊びに行っていい?」

「いいとも」

このクララと世帯を持つことになったら、あの下宿屋はひきあげて、どこか一軒、小さくても家を借りなくちゃならないと俺は思いながら、

「きたないとこだけど、おいでよ」

「おスシ持って、行くわ」

クララは楽しそうに言って、

「さ、おトコつけましょう」

「いやなこと言うなよ」

「いやなの?」

「言葉がいやなんだ」

「じゃ――抱いて」

クララは俺の手を引っ張って、ベッドに俺を腰かけさせ、俺のネクタイをいそいそと解きながら、

「今日は、兄さん、あれ、いいわ」

「あれ?」