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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

クララは俺を愛していたのかもしれぬ。

それにしても、俺のヨシコにとっついたリン菌は、クララの男のヨシコに巣食っていたリン菌なのだと思うと、俺はやり切れない。俺は無性に酒が飲みたくなった。

飲んじゃいけないとなると、よけい、飲みたい。飲むと、せっかくの治療がふいになるからと厳禁されていたが、俺は酒が飲みたくて飲みたくて困った。俺はそれを我慢した。小便を我慢したように、我慢した。我慢力を試そうと我慢した。

俺は上野に出て、不忍池のまわりをほっつき歩いた。上野の森に、満月がぽっかりと浮いていた。

出た出た月が――俺はそんな童謡を口ずさんだ。まーるい、まーるい、まんまるい、盆のような月が……。

俺はクララが恋しいのだ。クララというより、照子が――瀬良照子が。これがクララの本名である。

俺は同じ歌を、幾度かくりかえしたが、そのうち、

デタ デタ

ウミガ

間違えた。俺はデタ、デタ、ツキガと言い直したが、えい、くそと舌打ちをして、

キイロイ

キイロイ

マッキロイ

ウミノヨウナ

ツキガ

クララこと瀬良照子に俺はどうしてももう一度会いたいと思った。そのおもいに駈られて、俺は砂馬に会った。