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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「俺の惚れた女は、その瀬良という支那浪人の娘なんだ」

クララこと照子からその姓をそうと聞いた。

「女がそう言うのか」

砂馬は足の垢をよって、黒い玉にすると、そいつをつまんで、爪のさきでぽんと庭に弾いた。空いた右手では「朝日」をすいながら、

「支那浪人の娘が、銘酒屋奉公をしているのか」

「自分のお父つぁんは支那浪人だと言ってたんだ」

「銘酒屋の女の言うことを、加柴は真に受けてるのか」

「聞いてくれるくらいは――聞いてくれたっていいだろう」

「支那浪人の斎田慷堂に、同じ仲間の娘が淫売をやってるかと聞くわけか」

俺は初めこれを丸万に頼んでみようかと思ったのだが、丸万から俺は、彼が砂馬を慷堂にひきあわせたという話を聞いて、砂馬のほうにしようと思い直した。慷堂の名を俺が口に出したとき、砂馬はどういう反応を示すか、それを知りたい興味もあって、ここへ来たのだ。

その砂馬は、慷堂に対してそんな失礼な質問ができるかと言わんばかりだったが、すぐつづけて、

「そいつは面白い。聞いてみよう」

と俺に言った。

このとき、黒い背広の男が、いけ垣の向うからひょっと座敷をのぞいた。刑事だと俺は直感して、