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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

図書の声には殺気があった。

「……ここで死ぬものと覚悟をして抜け、いざ」

久之助はじっと図書のようすを見た、それから下緒を外して襷をかけ、袴の股立をとって、しずかに大剣を抜いた。図書もまたそのようすを見まもっていたが、なにか思い出したとみえ、

「待て待て、立合いは明日にしよう」と云いだした。

「……そこもとにも始末すべきことがあろう、人に見られてはならぬ文書、仕残した用、片付けなければならぬ物もあるだろう、今宵その始末をして来られい」

まじめだった。それではどちらか一人は死ぬ覚悟というのは威しではないのだ、まさかと思っていた久之助はにわかに身がひき緊るのを感じた。

決して他言はせぬという約束を交わし、時刻をうちあわせて家へ帰ると、久之助はすぐに身のまわりの始末にかかった、常づね注意しているつもりだったが、いざ片付ける段になると案外に暇どって、終ったのはもう夜半の二時を過ぎていた。

――これで死んでも悔いはない、そう思ってひと眠りし、まだ寝足りないようだったが、井戸端へ出て頭からざぶざぶ水を浴びた。

定めの時刻にゆくと、図書は泥まみれの妙な恰好をしていた。