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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
「さむらいの御奉公とは、一身一命を捧げるところから始ると存じます」
「それはどこで終るのだ」
「終りはございません」
「人間は死ぬぞ、死んで奉公ができるか」
「いちど御しゅくんに奉った身命は、たとえ死んでもおのれに戻る道理はございません、すなわち初めはあるが終りはないと信じます」
暗がりのなかで図書はそっと頷いた、けれどすぐ追っかけて、それではそこもとはいつなんどきでも身命を捧げられるかと問い継いだ。
「云うだけならどのようにも云える、実際にそれを活かしているかどうか」
「それは口ではお返辞の致しようがありません」
「方法はある」
図書はそう云って立った。
「……刀を持って庭へ来られい」
さっさと出てゆく図書の後から、久之助も大剣を右手に持って庭へ下りた。十七夜の月は昇ったが、まだ光りが鈍いので庭の内はおどろに暗い、図書はふり返って月を見たが、そのまましずかに刀を抜いた、厚がさねの長い刀だった。
「武士の性根は剣にあらわれる、身命を捧げたというそこもとの性根を拝見しよう」
「ここでお相手をするのですか」
「そこもとがまことにお役に立つ人間とわかれば、わしは斬られて死んでも本望だ、その代りそこもとが君寵を偸む似而非武士とわかれば斬る」