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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
百日ほど経ったとき、がまんがきれたとみえ、横堀賢七が道場を出るといいだした。
「……少し思案がございますから、ぶしつけですが道場から出して頂きます」
忿懣に堪えないと云いたげなかれの眼を、久之助は冷やかに見かえして、
「ならぬ」と答えた。
「そこもとたち五人は殿からお預り申したので、自分がよしと認めるまではいかなる事情があろうとも道場から出すことはできない、二度とさようなことを申せば……」
そこで言葉を切ったが、あとに続くべき言葉がどんなものか察しのつく、断乎たる調子が賢七の心をつよく打った。
一年めに、和田藤吉郎という者が免許を取った。かれは五人のなかでも最も栄えない存在で、挙措も鈍重だし、道場での稽古もぶきような、あまりとりえのない男にみられていた。
それが第一に免許を与えられたのである、他の四人も意外だったろう、しかし当人のおどろきは誰よりも大きかった。
「……そこもとにはもはや伝授すべきものはない、しかし今後が大切だから、道場での修業を忘れず御奉公をなさるよう、これは免許のゆるし書である」
そう云って封書を一通わたされたが、藤吉郎は顔を赧くして、なんとも具合の悪そうなようすだった。