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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
文治にも武治にも、生涯に遺した功績は大きく、他の模範となったものも少なくない。
……だがここでは忠辰を語るのが目的ではないから、われわれの主人公へ筆をもどすとしよう。
久之助は郷田権之助という者の三男で、七歳のとき幼君(即ち忠辰)のお相手に御殿へ上った。いっしょに五人ほど上ったが、初めから久之助が特にお気にいりで、なにをするにもかれ無しでは済まず、またかれの云うことなら大抵は用いられるという風だった。
しかしいちどだけこういうことがある、ある時なにを思いついてか、お相手の一人に向って、「犬になれ」と云いだした。その少年は厭ですと答えた。
「おれがなれと云うのだ、なれ」
「厭でございます、犬にはなりません」
押し問答をしていると、久之助が忠辰に向ってそれは若君が御無理だと云った。
「そんな真似をしたら、某はこれからさき御奉公がならなくなります」
そこにはお相手の少年たちがいたし、いちばん好きな久之助にそう面詰されたので、忠辰は怒って久之助に組付いた、そしてかれをそこへ捻じ伏せて拳で打った。久之助は避けもせずに打たれながら、
「若君が御無理だ、某が仰せに反いたのは尤もです、さむらいに向って犬になれと仰しゃる法はない」