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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

「……いざ」

と声をかけたのは弥六だった。そして身構えをするとみた瞬間、まるで通り魔でもするように淵田主税助の躯が躍り、かっと高い音をたてて弥六の木剣が空へ舞いあがった。

……刹那の勝負で、弥六は呆れたように棒立ちになった、そして二十間ほどはね飛んだ木剣が、玉砂利の上にからからと落ちてから、はじめて、「まいった」と声をあげた。

主税助は見向きもせず、黙って自分の木剣の尖を撫でていた。その姿勢はかなり驕ったもので、不満足だという意味をあからさまに示している、忠辰は久之助をかえりみた。

「そのほう出てみよ」

「……はっ、御意ではございますが」

「なにも云うな、出ろ」

きめつけるような忠辰の声に、久之助は低頭して座をすべった。

……代って相手が出ると聞いて、主税助はにっと白い歯をみせた、すばやい表情だったが会心の笑である。かれは庭へ下りて来る久之助を鋭く注視し、卒然と木剣に素振りをくれた、ひゅっと空を截る素振りの音は、かれの闘志を表白するように思われた。

久之助はしずかに汗止をし襷を掛け、袴の股立をとった。主税助は依然としてなんの身拵えもしない、ただ鋭い光りを放ちだした双眸で、くいいるように、じっと久之助の五躰を見まもっていた。