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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

支度ができると、久之助は一礼して木剣を軽く左手に下げた。両者の間隔は二十尺ほどある、相対して、ひたと眼を合わせた、久之助はまだ木剣を左手に持っている、主税助はしずかに、

「いざ」と呼びかけた。

そして普通よりはよほど寸延びとみえる木剣を正眼につけた。

……久之助は黙って、やっぱり木剣を左手に下げている。そのまま十呼吸ほど経った。短くも長くもない時間である、そしてその時間の糸の切れる瞬間がみえるようだった、――今だ、と人々が思った刹那である、そして主税助の面上にも微風のかすめるように動作を起す意気が閃いた刹那である。

久之助の右手がゆっくりと動きだし、左手にさげた木剣を握ってしずかに右側へと持ち直した、いかにもしずかな動作だった。

けれどもすぐ次ぎの瞬間には主税助の口から絶叫があがり、電光の飛ぶようなすさまじい打がはいった、久之助はゆらりと二間あまり後へ退り、「まいった」と云いながら、再びしずかに木剣を左手に持ち直していた。

久之助はそのままいちど退下したが、半刻ほどしてまた召された。

忠辰は扈従も伴れないで、独りで庭に立っていた、たいそう不興そうであった。