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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

「先刻の勝負はどうした、余にはまこととは思えないが事実はどうなのだ」

「おめがねどおりでございます」

「譲ったのか」

忠辰は屹と眼を怒らせた。

「……あの心驕ったさまが憎いからそのほうに出ろと申した、それがわからなかったのか」

「要もないことでございます」

久之助は穏やかに答えた。

「……ああいう者には負けてやるのが武士のたしなみだと心得ます、勝ってもそれだけのはなしで、悪くすると他国へまいってあらぬことを云い触らし兼ねません、そうでなくとも折角おたより申して来た者ですから、このくらいの馳走は当然でございましょう」

忠辰は頷いた。そして声を和らげながら、主税助を召抱えたものかどうかと訊ねた、よかったら神道流をも藩に入れてみたいというのである、久之助はすぐに否と答えた。

「たしかにすぐれた技倆はあると存じますが、神に純粋でないものがあり、眼光もまっすぐでないように思えます、お取立ては御無用でございましょう」

かれがそんなにはっきり意見を述べることは珍しい、忠辰にはそれが快かったとみえ、不興げな顔色を解いて、

「たいぎであった」と幾たびも頷いた。

久之助が住居へ帰ったのは、四時過ぎであった。