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ゆだんたいてき

ゆだん大敵

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页

青空文庫

久之助はしずかに立ち、

「こちらへ来い」

といってずんずん奥へ去っていった、賢七は面を伏せたまま怒ったような足どりでその後を追った。

……道場と久之助の住居との間に、廊下に面して小さな部屋が七つある、門人たちの起居する居間で、久之助はそのいちばん端にある賢七の部屋へはいった。そしてむぞうさに戸納を明け、手に当る物を一つ一つ取出して畳の上へ並べた。

……それを一々ここへ記すのは気の毒であるが、めぼしい物だけ拾ってもなかなかの数だ、最も配合の妙なのはあまりきれいでない下帯といっしょに、紙に包んだ飴玉の出て来たことである。

「ここは今日、片付けるつもりでした」

賢七はさすがに狼狽したらしい。

「……この両三日、暇がなかったものですから、本当です」

久之助は黙っていた、戸納の中の物をすっかり出し終ると、隅に置いてある挾箱をあけた。かれのいわゆる「死装束」と、毎日の登城に使う衣類がはいっている、それを一枚ずつ取出すと、恐らく着物の袂にでも押込んであったのだろう、又ぞろ飴玉が十ばかりも転げだした。

……挾箱が済むと小机の側へゆき、脇に置いてあった手文庫をひき寄せた、賢七は走せ寄ってしっかと押えつけた。