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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
「遅いぞ渡し守」
近寄って来た足音を聞いて主税助はふり向いた。
「……これへ持ってまいれ」
「酒は後にしよう」
「なに」
かれは颯と身を起した。
「……誰だ」
渡し守ではない、片手に燗徳利を持っているが武士だ。
主税助はがばと立った、その面前へ、
「もうお見忘れか」
と云って久之助が歩み寄った。
「御前で相手をした老田久之助という者だ」
「……思いだした、あの師範だな」
主税助はぎろっと眼を光らせた。
「……して、ここへ来たのはなんのためだ、拙者に用でもあるか」
「そこもとはわれらの御しゅくんの悪口を申したそうだ、人づてだからたしかとは云えない、われらの殿を暗君で在すかのように申したのは事実かどうか、それを聞きにまいったのだ」
「長岡びとは気がながいな」
主税助は唇に嘲りの笑みをみせた。
「……わが主の悪口をいわれて、わざわざ念を押しに来るとは見あげたものだ、申したと云ったらどうする」
「心ないことをしたものだ」
久之助はおちついた声で云った。
「……他藩のしゅくんの悪口を申せば、その藩に仕える武士は手をつかねてはいない、君の辱しめらるるとき」
「臣は死すという」
主税助は久之助の言葉をもぎ取って云った。