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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
……お上の特に御好物なものは、得難きものほどこれを奉って御意に協おうとする争心を起させます。同様に人を偏してお用いあそばすことも、家中に争心を起す因かと存じます」
「いまの言葉はなんの書から引いたのか」
「はあ、老子経だったかと存じます」
「老子は異端といわれている、そのほう老子など読んでは悪かろう」
「毒薬も嚥み方しだいと申しますから」
忠辰はにっと笑いながら頷いた。それではこんど会うまでに自分も老子を読んでやるぞ、という意味である、朱子一点ばりの儒臣の眼をかすめて、忠辰が古学や陽明を知ったのもこの手であった。
久之助は退出するとき、
「蜜柑のことは覚えて置く」という言葉を貰った。
長岡へ移ってからの久之助は、藩士で後に忠辰の侍読となった小出経之についてひじょうによく学んだ。
それから原田義平太という老人を師に三留流の刀法を修業したが、義平太から手すじの良さを認められ、三年ほど経つと代稽古さえするようになった。
「なんの道にも天成の才というものがある、そこもとの刀法がそれだ、学んで得られないもの、教えて教えられぬものをそこもとはもっている、当藩の三留流は自分一代で終るつもりだが、秘奥とされているものはそこもとに伝えよう」