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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,664 字 · 41 页
そう云って義平太はおのれの会得したものを懇切に伝授した。
……忠辰が帰国すればお側去らずだし、学問でも武芸でも群をぬくし、挙措は慇懃で謙虚だし、数年間は一藩の嘱望と好意が久之助ひとりに集ったようだった、しかしそれはかれが二十一二歳までのことで、それ以後はしだいに性格が変っていった。
同藩の士に、鬼頭図書という者がいた。類のない偏屈人で、
「おれには尋常な御奉公はできないから」
と云い、若いときから城の内外の草取りを役目に乞い、そのほかにはどんな役にも就かなかった。あるとき某という者が、
「七万石の御家に二百石の草取りは勿体ないことだ」と云った。
図書はすぐに某の住居へいって、
「……草取りをしようと下肥を汲もうと、御奉公の一念に誤りがなければよい筈だ、家禄二百石は鬼頭の家に下さるもので、草取りをする図書に賜わるものではないぞ」と呶鳴りつけた。
ふだん余り口数はきかないが、云う段になると遠慮会釈がなかった、たとえ相手が老臣だろうと足軽だろうとあたり構わず呶鳴りつける、しぜん親しく往来する者もなく、五十歳を越すのに娶らず、いとまがあれば二人の家僕と田を耕したり畑を作ったりして、徹底して簡素な生活を送っていた。