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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

」と参観の誰かがいった。

「パルプといやはるのは、へえ、この木っぱだすかいな。」と誰かが、その木っぱの二、三片をその生っ白い掌の上でザラザラとあけた。

ああ、そうだ。パルプ、パルプ。

高麗丸船上から、この朝、私たちが瞥見した、あの濛々たる黒煙を吐いていた五、六本の大煙突の立つ真岡工業会社の内部に、私たちは今まさに、兢々然たる胎内潜りをやっているのだ。

パルプ、パルプ。

*

観光団員の一人は、鼠色のセメントの壁面に挿まれた、青色の急階段の半で、よろよろと倒れかかった。顔が真っ蒼になっている。慌てて、その男を誰かが引っ擁えて下へ降りた。

「毒瓦斯だ。」わあっと白ヘルメットの近眼鏡が、その背後から転げ転げ逃げ降りたものだ。一種異様の悪臭が私の鼻をも衝いた。うむ、むむむむである。

「あははは、亜硫酸瓦斯だよ。大丈夫。」という上から笑い声もした。

そこで、また、どかどかとあがった。それでも半数は階下の開き戸から表へ飛び出してしまった。空気、空気、空気。

なにしろ、一同、生れて初めて見た截断刃、大斧、粉砕機などに仰天し戦慄し畏怖しきっているのだから、突然、しゅうしゅうと斜め下ろしに吹きまくって来た亜硫酸瓦斯の悪気流には、全くのところたじたじたじとなったにちがいない。