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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

安別

宗谷海峡も過ぎたであろう。もう夜が明ければ樺太だが。

キリキリキリキリと帆綱の鐶。

空はまだ暗い暗い暗い。

おおいおおいと何やらが

海の底から呼んでます。

どうせ、くらやみ、北の海、

おおいおおいで夜もふける。

安別

薩哈嗹州ピレオ 北方二里

アレキサンドロフスク 北方約三十里

海岸の白木の角標にはこう記してあった。日露境界第四方とまた一面に大書してあった。

十三日の午前のことである。どうにもひどい強雨であった。

*

本来からいえば、小樽を出て翌朝、私たちは樺太西海岸の本斗に上陸して、真岡より野田へ汽車で行き、一晩泊って、それからまた海路を国境の安別まで続航するはずであった。ところが、ちょうど摂政宮殿下の行啓と差合になるので、急に模様換えになって、そのまま北へ北へと直航することとなった。その十二日は全く薄らさみしい日であった。右舷にはいつでも鮮かな緑と寒い黒椴の丘陵とが眺められて、何となく樺太らしい物珍らしさが感じられたものの、いよいよ北緯四十五度の線を越したかと思うと、曇天の日の円までが、ただ白くぼやけて寒ざむと、頼りなく仰がれても来た。海は黒く、滑らかな大きいうねりが続いているばかり、やっぱし明るいようでも輝きはしなかった。